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刀剣乱舞 山姥切長義

刀剣男士や政府関係者が立ち寄るというとあるお店。
そちらで長義が用意してくれたのが6月の……アレです。ジューンブライド的なアレ。プロポーズリングというやつ。
と言うわけで頂きました、長義の瞳と同じ色のブルートパーズを探してくれたらしい。

「全く、まるで自分の目を見ているようだよ。まぁ、君が気に入っているのならそれでいいし、俺も好ましくは思うけどね。
―――それに、俺が見ていると思えば他の男士も君に妙な気は起きないだろう?」

全方向に牽制する長義さん。


背景は私常連の教会。
バイエルン州の某教会。……長義って洋装だからいいだろ。

そして毎度のことながら主が引き寄せられているので結構ナナメってる。




そして考えながら書く小説。

――――――――――――――――――――――――――――

「わっ!!」

「……。 はいはい、残念だけどその程度ではもう驚かないよ」
 とある昼下がり。庭にて。
 散策がてらに刀を振りに行こうと歩いていた長義は鶴丸に捕まってしまった。
「ちっ、長義も慣れてきちまったか!」
 はっは!と鶴丸は声をあげる。その様子に長義は口元に笑みを浮かべながら手を振った。
「貴方の驚きもその程度なのかな、なるほど、底が見えて来たという事か。大したことはなかったな」
「おお?言ってくれるねぇ!よっし、またあとで見てろよ」
「…いや、もういい。勘弁してくれ」
「なんだ、そう言うなって」
 ばんばんと肩を叩かれ、長義は呆れたように顔を手で覆った。

「――――ときに」
「何かな?」
「長義はその手袋の下、何かしてるのか?」
「…何か、とは」
 質問の意味が理解できず、長義は片眉をくっと上げた。
「手袋を外せ、と言う相談なら受けないよ」
 この手袋は主の前でしか外さないと長義はいつからか自分の中で決めていた。
 彼女に触れる時、彼女の物に触れる時だけ、と。
「ははは!そうじゃないさ。なぁに、俺は神社やらにもいた事があってな、いろいろな人、その祈りやらを見たんだが―――
どうも、指輪と言うのははめる位置で大きな意味を持つ、って聞いてな」
「へえ。まぁ確かに守りの何たら、と言うのは聞くね。石にも意味があるとかないとか」
 ただ、それは女人の話だろう。と付け加える。
「いやいや、海の外の国じゃあ権力者はやたらと指輪をしているらしいからな」
「…あぁ…なるほど? で、それが俺と何の関係が?」

 ぽん、と手を叩く鶴丸。
「おーい!!光坊!!」
「…話を逸らしたのか?」
「違う違う、適任者がいたんでな。話を振っておいてなんだが、はっきり言って俺もよくわからんでな」
 ははは、と笑う鶴丸に息をつく。
 …よくわからないのなら呼び止めるな。と長義は言いたかったようだがそれをとりあえず飲み込む。

「……え、何の話だい?あれ珍しいね、鶴さんと…長義くん?」
 声を掛けられ燭台切光忠はこちらに歩いてきた。
 内番着の彼はきっと今、畑作業をしていたのだろう。
「俺は鶴丸に捕まっているだけなんだけどな」
「はは、……で?何かな、鶴さん?」

「政宗公は海の向こうの話も好きだっただろう?指輪の話をしてやってくれよ」
「指輪、………あぁ!なるほど」
 ぱあっと顔が明るくなる。
 どうも二人で話が進み、長義は面白くなさそうに息をつく。どうもため息をついてばかりだ。
「…二人で話が出来るのなら俺は席を外していいかな」
「いやいやいや!待って、長義くんが聞かないと意味がないんだ!」



* * * * * 


「つまり」
「そう、婚 約 指 輪、だよ」
「なるほど?…それを俺が主に渡せ、とそう言うのかな?なるほど、そういうものもあるのか…確かにな。契約、と。しかし人の子は色々と面倒だね」
「契……。いや…そういうのでは……ない、かなぁ?」
「ああ!別に俺がやってもいいぜ!」
「おい…!」
「まぁな、主は俺らと生きた時代が違う」
 鶴丸は腰に手を当て、それから空を仰いだ。
「…主が生きている時代は海外との積極的な交流もあるだろ?ここはぱーっと渡して驚きをだな!俺らは刀を手にするからまぁ、指に装飾品と言うのもなかなか難しいかもしれないが、主は別だ」
「そう、かっこよく渡せたらいいと思うんだよね。僕も渡したいくらいだよ」
「…だから!それは俺が却下する!……まぁ、話は分かった。礼を言うよ。ただ指の大きさは人それぞれだろう。突然買っていって指にはまるものなのか?」
「いやあ、それがはまらないんだよね。服以上に指周りは人によって違うんだ」
 燭台切は自らの薬指を人差し指でくるりと撫でる様に示した。
「だろうね。あまり気にしたことはなかったが、…骨ばっているやらあるだろう」
「そう、主の指は長くてきれいだけど、でも細いとは限らないよね」
「ああ、主と腕相撲したとき結構手は大きかったな、手の厚みは…まぁ、そうでもないが」
 それぞれに審神者の指を想像し、ふうむ、と鶴丸が顎に手をやる。

「まあ、主は背丈も女人にしては高いからね。並ぶと俺が少し高いくらい。ならば当然手も小さくはないだろう」
 長義は自分の手を広げ、見る。
 手を重ねた時を思い出し、―――流石に自分よりは小さいが、そうだ、結構手は大きかったなと。
 それでも女性のそれ、だ。自分より薄く、柔らかい手。

「――――なんだ、ならば店屋に連れていけばいいだろう、好きな物を選ばせるのがわかりやすい」
「ああ!そうだな!」
「なるほど。それもそうだね。店は知っているのかい?……ああ、前に教えたところ」
「ああ」
 三振りも男士がいて、何故最初にそれを思いつかなかったのか。長義は内心自分たちの行動に呆れる。
「合わなかったら意味がないかな」
「そうだね、合わなかったら本当に恰好がつかない」
「確かになぁ、そんな驚きは必要ないよなぁ」

 そうして審神者部屋に足を運ぶであろう長義の背を二振りは見送りながら、
「長義くん…ってこういう事にもスマートだと思っていたけど、違ったんだね。意外だな」
「ま、人の女に興味なかったんだろうなぁ」
 両の手を頭の上で組みながら軽く笑う鶴丸を横目で見ながら。
「主の近侍になってからこちら、何もかも想定外なんだろうさ。そういう驚きもおつなもんだな」
「…随分、丸くなったからね。今でもあまり自分から関わろうとしないけど…、山姥切くんとは兄弟みたいになっているし、いい方向に進んでいるなって思うよ」
 偽物くん、と相変わらず呼んではいるが、その声音は「嫌なもの」を呼ぶ声ではないのだ。
 仲間として認め、そして自分の写しであることも認めている。そう周りから見ても感じられた。




* * * * * 



「え、万屋ぁ?…なんか私が付いて行くようなところ、あった?」
「へえ、俺と出かけるのに理由が必要かな?」
「えー!ないない、行きたい!今行くの?」
「…別に、いつでもいいが。ただ今日は午後の予定がなかったからな」
 長義はくるりを向こうを向いてしまう。

「(何を、馬鹿な。……この俺が)」
 少し、胸の鼓動が早い気がする。

「行こ!」
 腕にどん、と身体を預けて来る。
 長義はその様子に苦笑しながら本丸を後にした。




「あれ、ここじゃなかった?」

 転送部屋から万屋のある時空へ。
 資材などを購入する万屋の場所は知っている。そこを素通りする長義。「他に店屋があるんだよ。ほら、ふらふらしない」とそれだけ言うと手を引いて店の方向に歩いていく。
「(確かに、厚みはないけど、手は小さくはない、かな。指も長い)」
 他の女性の手など握ったことはないから比較しようはないが。
「? なになに?」
「なんでもないよ。…所で君は何色が好きなんだ?」
「お、何いきなり? …うーん、長義のリボンタイとか肩掛けの裏地の青とかきれいだなーって思ってるけど、……ピンクも好きだよ」
「あぁ…そのままだな」
 あまりにもわかりやすい自分の恋人に思わず笑ってしまう。
「なにそれー」

 そうこうしているうちについたその店。横文字の店名。
 白を基調とした美しい彫刻が施されたファサード。
「わ、きれい。 え、長義、ここに用があるの?」
「そうだけど?」
「マジで…?」


 カランカランと小気味よいベルの音と共に白い扉を押し開ける。

「うわぁ、かっわぁいい。わぁ、なんだこれ、いいなぁ〜」
「(本当にこういったものが好きだね)」
 聞いたことがあった、主は―――それこそ政宗公が取引していたという外国に何度も行ったことがあると。
 だからだろう、このような意匠の建物は好きなのだろう。
「(だけどその割には装飾品は持っていないよな…。俺が渡したものくらい、か)」

「あーこっちアンティークかな、うわ、きれい、かぁっこいい…」
「こんにちはーいらっしゃい! あれ、男士と一緒に審神者さんが来てるんだー?ねね。何を選びに来たのー?」
 そこには長い金色の髪を軽く結った女の子―――のような刀剣男士。乱藤四郎だ。
「乱ちゃん。うわ、ここんちの乱ちゃんも可愛い」
「えへへーありがと!あの長義さんの審神者さん、だよね?そのネックレス見覚えあるもん」
 襟元を指差し。
「あ、ここのお店のなんだ?可愛いよね」
「そうだよー!ありがと! へー……なるほどねぇ、あの圧が強ーい長義さんの神気付与かぁ。あーそうなんだ〜なるほどね〜。 ふふ、ふーん」
 乱は店主と話している長義を横目で見て、それから。
「うちのお店のアクセ、期待してくれていいよ!じゃね、あっちで準備があるからっ」
 ぽん、と肩を叩くと鼻歌混じりに店の奥へと戻って行った。
「準備??」


「…―――ああ、店主、少しいいかな」
 長義は一人で(先程まで乱がいたが)きゃいきゃいと騒ぐ主を横目に、女性店主に声を掛けた。
「はい」
 それからあちらに聞こえないようにぽつ、と。

「婚約指輪を見立てて欲しい。―――そこで一人で騒がしい彼女に、ね」
「まぁ、そうでしたか。ふふ。何度かいらしていただいてますよね」
「ああ、……そうだな」
 少しばかり言いよどむ。あまり照れた顔を見せないこの山姥切長義、だ。
 息をついて自分のペースを取り戻すように。
「まぁ、今更だけども、助言をもらってね。こういうことはきちんと通過しておいた方がいいと思っただけかな」



「お客様、よろしいでしょうか?」
「あーはいはい。―――あれ、長義。用は終わったの?」
「いや、これからだよ」
 手招きされ、カウンターに通される。
 そこにずらりと並べられたきらびやかな石。色々な色の石がびっしりと行儀よく並んでいる。
「わ  ぁ きれー」
「…婚約指輪。選びに来たんだ」
「!?? え… こっ、ん…!?」
「そう、何もおかしい事じゃない」
「だ、誰の…?」
「…君は面白いことを言うな。俺と君でここにいて、何か?燭台切の婚約指輪でも選ぶのかな?」
 わざと棘のある言い方をして。
「いやいや、それはないだろうけど」
「俺が、君に。…だ。―――全く、何を言わせるのかな。俺の主」
 ほぼない身長差で口元が耳に近い。囁くように。
「っぁ……!」

「はい。山姥切長義様より承っております。どうぞお好きな石をお選びくださいませ」
 店主は微笑みながらそれを差し出した。
「婚約指輪はサプライズだ、と購入されていく男士様や政府関係の男性のお客様もお見えですけども、こうしてお相手の方を連れてきていただけるとこちらも助かります。やはりサイズやお好みもありますから」
「…はー……ぁ」
「どうかしたかな」
「いや!どうかしたかな?じゃないよ!長義、こういうの…、あー!もうちょっとまともなカッコしてくるんだったよ…!」
 両の手を頬に当てたり、襟元に当てたり。
 どうも手と表情が騒がしい。
「ふふ、大丈夫ですよ。とても良くお似合いです。いつもされている服装のほうがいいのですよ」
「えー…。あー…もう…!」
「茹蛸みたいかな。あまり真っ赤にしてると戻らなくなるよ?」
「っ……たこ言うな…ッ
「ふふ、では、こちらへよろしいでしょうか?」
「あ、はいっ」


 ――――乱藤四郎に案内された綺麗な子部屋。白くて花柄のティーカップに紅茶が用意されていた。焼き立てであろうクッキーは花や小鳥などの形で造られており、レースを模した紙の上にきれいに並んでいた。
 そこで広げられるキラキラとした石たち。
 流石の長義も西洋文化の宝石には疎い様子だったが、それでも石の意味や色、デザインあたりは口を挟んできた。
 いくつか候補を絞り、指に当てて見せてみると目を細めて微笑む。
「ああ…」
「(笑った顔がホントにきれいなんだけど長義…。くそぉ……さっきの乱ちゃんもそうだけど、なんでこう綺麗なのが多いのかね…流石刀…?)」
「何かな。ぼーっとして。…今は俺より石を見て選ばないと。俺は後ででも見られるよ」
「う! …うん ソウデスネ…」
「仲が本当によろしいのですね、こちらも楽しくなってきてしまいますわ」
「まぁ、当然かな。騒々しくてすまないね」
 臆することを知らない長義の堂々とした物言いに店主はふふ、と笑う。
「頼りがいのある、素敵な旦那様でいらっしゃいますね」
「だっ!!! …は、はいぃ…。ちょ、っとまって。…これどういうイベントなの…」
 普段。そう普段、本丸で過ごしていて他の男士にこう話題にされることはない。
 今更、という事なのだろうが。
 長義と言えば、まんざらでもない様子で店主と主を交互に見ながら笑っていた。――――にやりとあの顔で、だ。


「ええと、…これがいい…」
 深い青色、薄い青色、それがキラキラと光る石。
「まぁ、山姥切様の瞳のお色にそっくり」
「へぇ、俺の瞳の色ね。…いいな。俺も好ましいと思う。何より君がそれでいいならいいよ。では、店主、こちらを頂こう」
「かしこまりました。浄化後セッティングしてからお渡しいたしますね。少々お待ちくださいませ」
 店主は指輪を盆の上に乗せ、奥の間に下がって行った。

 ほう、と息をつく。
「びっくりした。…いきなり指輪なんて言うから」
「驚きは鶴丸の専売特許、というわけじゃないよ」
「…でも。嬉しい…」
「……はは…」




 本丸に戻った後、箱に入れたままだった指輪を長義は取りだした。
 障子から透けて落ちる光が、手元を照らす。
「さて」
「…あれ?」
「どうした。―――ああ、この花、かな?」
 指輪には店で試着した時とは違う、小さな花のチャームがついていた。シンプルながらも主張する。それは目の前の刀剣男士の様な。
「俺が選んだ。揺れて指に当たれば、いつも意識するだろう?」
「…かわいい、けどそういう意味なの?」
「さぁ? ただいくつかから選ぶように言われたんだよ。ごちゃごちゃと騒がしい物よりささやかなものがいいと思ってね」
「うん、かわいいよ」
「…では」
「…ええと……」
「こういったものを渡すのに何か儀式めいたことが必要なのか、俺は知らないけれど。どうなのかな?」
「え!私も知らないけど。流石に儀式はしないと思う」
「まぁ、…だろうね。……さて」

 それから指輪に手を重ねて。
 目を閉じて気を集中させる――――。
「……」
 ふわ、と光が覆った。
「(あ、神気かな…?)」

 風が起きているわけでもないのに髪が揺れ、光が増す。
 ゆっくり目を開けると段々と光は手元に収縮し、やがて吸い込まれるように消えていった。

「俺の物だという証。神気を込めればそれは守りとなる」
「…わぁ…」
「では ――――ほら、主。馬鹿みたいに口を開けない」
 手を差し出す長義に、「えと、左?」と聞きながら手を差し出した。
 ゆっくりと薬指に滑らせる。
 神気が籠っているからか、店で試着したときよりぴたりと吸い付くように。
 何故だか、もうずっとそこにあったかのような。


「愛している―――。本科・山姥切長義の名に懸けて。貴女を守り続けると誓おう。そして、いつか神域に隠すよ。もう俺から逃げられない」
 耳元で、真名を囁く。息交じりに言ったその名は優しく空気を振るわせて。
「はい…。私の山姥切長義…」
「……。これで、俺のものかな」
「こんなことしなくても長義のだよ。でも、嬉しい。まさか長義から指輪もらえるなんて思ってなかった」
 指輪の青色の石を見つめれば、その石の中に何かとくん、と波打つ。
「…全く、俺の瞳の色とはね。自分の目を見ているようだよ。……まぁ、俺が見ているのならばこれで他の男士やらがちょっかい出すこともないだろう」
「元々そんな子いなくない?」
「………。どうかな」
 長義の脳裏には「なんで主の恋刀なのー!!後から来ておいてさー」と騒ぐ初期刀が浮かんだが、それは口には出さなかった。


「……これで、俺と君はただの主と刀ではないよ」
 そ、と、後頭部に手を当て。己に引き寄せる。
「うん…」
「まだ約束、だけどもね。ただ、もう決まったことだ」
「政府は何か言ってくるかな…?」
「うん?…まぁ、言われても心配しなくていい。俺はあちらに顔が利く」
「…ねえ、審神者の任を解く、とか言われないかねえ…?」
「うん?今更心配になったのか」
「え、あぁ…そりゃ、ね」
「まぁ、それはないだろうね。以前も言ったと思うが、モノに心を通わせ励起させることができる人物、それはそうそう居ない。
それに、誰かがもしそんな理由で本丸を引き継ぐとなっても、君の刀らがそれを許さないだろうね」
「…うん…」
「怖くなったのか?」
 肩が震えたのを感じて、長義は肩を抱き直し、それから背に。

「……もし、刀の皆に、何かあったら、って」
「―――だとしても、俺は君を離すつもりはないよ。何もなかったことにして、ただの主と刀に戻れと言われても、断るね」
「…長義…」
「政府がこの本丸を解体し、俺と君を引き裂くなら、俺は君を神域に上げてこの世との関わりを断つ。微睡みの中、痛みを感じさせず連れていこう」
 低く、言う。
「うん…」
「へえ、いいの?…君を殺すと言っているんだよ、俺は」
「いいよ」
「へえ?そんなに簡単に返事をしていいのかな?」

 長義は一度目を閉じ、それから、す、と開けた。
 その目は審神者を真っ直ぐと捕らえ、青い瞳は光を宿して。

 何故か、背に氷が当てられたかのような冷気が一瞬走った。
 悪い雰囲気ではない。だが、多分これは畏怖。

「…あ」
「俺たち刀剣男士には次がない。元々が「物」であり、想いから生まれた「付喪神」だからね。人間やら他の生物のように先祖というものがないんだ。また、生まれ変わり、なんてものもない。つまり輪廻がない。今のこの命が無くなったから次、という概念がないんだ」
 とん、と指を審神者の襟元に。
「分かっているかな。…俺に隠されたら、同じになるよ?」
「……。いいよ。…長義から指輪貰ったんだもん、私は長義と一緒にいる。長義がいなくなるくらいなら」
「へえ、…事の重大さをまだわかってない気もするが。それでも迷わず言ってくれることには感謝する。―――――まぁ、いい。…君に次があって、俺に出会わない君など、価値がないからね」
「うわ、価値ないとか」
「それはそうだろう?…俺からしたら、ね。―――案外そういうものだよ。俺の物にしか興味がない」
「…長義が、私に興味あってよかった…」
 指輪を撫で、それから目の前の身体に寄りかかる。
 肩口に首筋に顔を埋めて。
「私の一番の刀、…誰よりも大切で……。長義の事も、皆の事も同じに守りたいけど…。でも、この気持ちだけは長義のものだから」
「…嬉しい事を言ってくれるね。 ―――――ああ、…だが安心するといい。この山姥切長義、まだ君を神域には連れていかない。政府の方は大丈夫だ」
 ああ、と少し声を上げたのは、切り替えるためだ。
「え?なんでわかるの」

「もう言ってあるからな。書類提出済だ。ぬかりはないよ」

「ええええー!」
「思いがけず君の気持ちが聞けて良かったかな」
「んもう」



「さぁ、これからが楽しみだね」





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