神田くんはいつも仏頂面です。 たまに見る感情はいつも「怒」。どうして毎日むっつりしているでしょうか。 王子様は無表情 今日も神田くんは無表情。 うん?よく見たら眉間にしわが寄っています。何故?視線の先は……あら、私です。 にっこり笑って手を振るとそっぽを向かれました。ちょっと傷つくなぁ。 私、何かしたんでしょうか。聞いてみましょう。 「神田くん、神田くん。ま、待ってくださいちょ―――痛っ!」 どたんっ。間抜けな音の後に鈍い衝撃が体を駆け巡りました。 運動は苦手です。すぐに息が切れるし、たまに走るとすぐに転びます。 幸い、今回は無傷ですみました。起き上がって服の汚れを払った後に神田くんを見ると、 彼はますます眉間にしわを寄せていました。 「馬鹿かテメェは!」 「は、はい、気をつけます…それより、私何かしましたか?」 「は?」 「や、さっき物凄い形相で私を睨んでらしたので。そっぽも向かれましたし」 「……それはちげェよ」 「え?」 「っ!だぁもう、あっち行けテメェ!」 「え、あ、はいっ、すみません!」 追い払われてしまいました。私の聞き方が拙かったでしょうか。 しかし、神田くんが「だぁもう」なんて言う人だったなんて! 意外だったけどかわいいです。 そんな神田くんが大好きです。 でも、どうすれば私の気持ちを彼に伝えられるでしょうか? 今日も神田くんは無表情におそばを食べています。 といいますか、おそば以外に食べないのでしょうか。おそばが好きならもっとおいしく食べればいいのに。 思いつつ、今日は私もおそばを食べることにしてみました。 「神田くーん、相席いいですかー?」 「…勝手にしろ」 「はーい、ありがとうございま……きゃあっ!」 どたーんがしゃーん。間抜けな音が食堂内に響いてます。 なんて醜態でしょう、椅子の足につまづいて転んでしまいました。せっかくのおそばも床にぶちまけてしまって! 「うわっ…大丈夫ですか?さん」 「あ、アレンくん。大丈夫ですよ、ありがとうございます」 「いえいえ。それより怪我はないですか?」 「怪我……あ、膝に青痣がっ」 「……というかさん、体中が痣だらけですよ…?」 「え、……あはは」 アレンくんに言われて気が付きました。腕や足に、まるで疫病のように青い斑模様が。 ちょっとした悪趣味なペイントみたいです。 とか思っている場合ではなく、おそばを片付けてしまわないと。 トレーにぶちまけたおそばと転がっていた器を乗せて立ち上がったとき、膝に激痛が走りました。 「い――――っ!」 思わずしゃがみこむ私。集めた器やらがまたがらんがらんと床に転がりました。 私ってどうしてこう、ドジなんでしょう。ていうか膝が半端なく痛い。 「だ、大丈夫ですか!?」 「んっ…ちょっと大丈夫じゃないです……」 アレンくんが心配そうに私の顔を覗き込みます。たぶん、私の顔は不機嫌な神田くんみたいに歪んでいるでしょう。 痛みを和らげようとして膝を覆っていた手をそっと外すと、膝は赤く腫れていました。 毎日強打していたせいで、膝の骨がどうにかなってしまったのかも。 どちらにしろ、医務室へ行って処置してもらわないと。 そう思ったとき、向かい側の席ががたんと鳴りました。もちろん、音を立てたのは神田くん。 しゃがみこんでいる私を睨んだかと思うと、テーブルを回り込んで私のところまで歩いてきました。 うわぁ、怒ってる怒ってる。 「あ、うー、と…お、お食事中にお騒がせしてすみませんっ」 あわてて立ち上がろうにも、膝が痛くて力が抜け、また尻餅をつく始末。 神田くんはますます不機嫌そうになっていきます。 ああ、私ってもしかしたら神田くんを怒らせるために生まれてきたのかも。 「どけ、モヤシ」 「……え、あ、僕ですか!ハイっ」 神田くんはアレンくんを脇に退かせ、無言で私を抱えました。 といいますか、これは巷で有名なお姫様だっこでは…! 「か、か、神田くんっ?」 これは一体どういうつもりでしょう。 問おうとしたけれど、神田くんは今まで見たこともないほどむっすりとした顔をされていて。 開いた口を閉じざるを得ませんでした。 そのまま神田くんは私を抱えて歩き出しました。わぁ、皆見てます。嬉しいけど恥ずかしいな。 「あの、神田くん」 医務室へ着くと、神田くんは私をゆっくりとベッドへ下ろしました。 そして慣れた手つきで包帯を棚から取り出し、私の膝へ巻き始めました。 なんだか居た堪れなくて、思わず神田くんの名前を呼んでいました。 「何だ」 「あの……いつもご迷惑をおかけしてすみません…」 お辞儀はできないので軽く頭を項垂れてみました。 神田くんのつむじが見えます。といいますか、初めて見ました。 「……何でいっつも謝るんだよ…」 「だって…私、神田くんを怒らせてばっかりですし……」 「別に怒ってねェよ」 怒ってるじゃないですか、と反論しようとしたけれど、多分言い争いになるのでやめました。 そのまま話すこともなく、無言で治療されていました。 ふと、神田くんがぽつりと呟きました。 「……お前見てるとイライラするんだよ」 「え?」 「すぐコケるし、あちこちぶつかるし、いろんな奴にヘラヘラするし、ムカつく」 「は、はぁ…」 まったく返す言葉もないです。 如何に、日頃どれだけ私が前後不注意なのか思い知りました。 ……でも、最後のはなんだか違うような。 「皆に笑いかけるのは別にいいのでは?」 「っ!」 疑問を直球でぶつけてみたら、神田くんが赤くなりました。か、かわいいなぁ。 「つーか、そこが一番ムカつくんだよ…」 「え、はぁ…そんなこと言われましても、」 難しいです、と言おうとしたとき、頬に神田くんの手が。 当の神田くんは穴があくくらいに私を見つめています。その顔はとても真剣。目を逸らそうにも、逸らせない。 少しの間のあと、神田くんの唇が優しく私の唇と重なりました。 「―――お前見てるとイライラする」 呆ける私に言い、神田くんは医務室を出ていきました。 「――――っ、……」 神田くんの言葉はどう解釈するべきなんでしょう? 私は膝の痛みも忘れ、火照る顔をおさえてしばらく考え込んでいました。 一つだけはっきりしていることは、私はもっと神田くんが好きになってしまったということ。 |